Taku's Blog(翻訳・創作を中心に)

英語を教える傍ら、翻訳をしたり短篇や詩を書いたりしたのを載せています。

2012-09-17から1日間の記事一覧

Paul Auster ”Invisible”

Invisible作者: Paul Auster出版社/メーカー: Faber & Faber発売日: 2010/06/24メディア: ペーパーバックこの商品を含むブログを見るタイトルの“Invisible”とは、英語で「見えない、不可視の」という意味である。見えないというのは、舞台になっている、1967…

村上春樹 エルサレム賞受賞スピーチ(『壁と卵』)

(村上春樹がエルサレム賞授賞式でこのスピーチをし、イスラエルの新聞のウェブサイトに英文が公開された2009年2月21日の直後に私がそれを大急ぎで和訳したものです。もとはグーグルのブログで公開していました。なお、村上本人の元の日本語の原稿と、ジェイ…

ジャン・リュック・ゴダール 『気狂いピエロ』 "Pierrot le Fou"

結婚している男と、かつての男の愛人の女との不倫と逃避行を描いた、ジャン・リュック・ゴダールの1965年の作品。美しい構図が印象的で、場面場面に応じて工夫された色使いと光のコントラストが駆使されている。どの場面も美しい一枚の絵のようで、この映画…

黒澤明 『七人の侍』

桁外れの映画だ。 今まで自分が時代劇と思っていたもの、大河ドラマはなんだったのか。確かに、これまでの時代劇が鼻につくことはあった。現代のテレビ文化にぴったり合うように、現代人が付け加えたチープな華やかさ。荒々しさ、猛々しさ、血生臭さのない殺…

烏賀陽弘道 『「朝日」ともあろうものが。』

「朝日」ともあろうものが。 (河出文庫)作者: 烏賀陽弘道出版社/メーカー: 河出書房新社発売日: 2009/06/04メディア: 文庫購入: 2人 クリック: 33回この商品を含むブログ (17件) を見る マスコミが批判されるようになって久しい。ネットが普及する前も、テレ…

黒澤明 『生きる』

「生きる」とは何であるか、これほど困難で切実な問いは他にない。 この作品の主人公は、胃癌に冒された、30年間無欠勤の役所職員だ。真面目ではあるが、日々を無難に、惰性で過ごしてきた彼を、黒澤は「本当の意味では生きてこなかった」と断じる。或いは、…

フォークナー『熊』 William C. Faulkner "The Bear"

熊 他三篇 (岩波文庫)作者: フォークナー,William Faulkner,加島祥造出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 2000/06/16メディア: 文庫購入: 1人 クリック: 10回この商品を含むブログ (8件) を見る 表題の中篇『熊』に加え、登場人物等関連した3作の短篇を所収す…

大平健 『診療室にきた赤ずきん 物語療法の世界』

診療室にきた赤ずきん―物語療法の世界 (新潮文庫)作者: 大平健出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2004/08メディア: 文庫 クリック: 6回この商品を含むブログ (61件) を見る 長く語り継がれる、誰もが知るお話というのは不思議なものだ。僕たちは、桃から生まれ…

ヘルマン・ヘッセ 『シッダールタ』 (岡田朝雄訳)

シッダールタ作者: ヘルマンヘッセ,Hermann Hesse,岡田朝雄出版社/メーカー: 草思社発売日: 2006/01メディア: 単行本購入: 3人 クリック: 21回この商品を含むブログ (25件) を見る 本書の主人公、シッダールタは、仏陀、釈尊とは別人物である。ヘッセによる…

渡辺哲夫 『死と狂気―死者の発見』

死と狂気 (ちくま学芸文庫)作者: 渡辺哲夫出版社/メーカー: 筑摩書房発売日: 2002/08メディア: 文庫 クリック: 4回この商品を含むブログ (4件) を見る 本書は、末木文美彦『仏教vs.倫理』という著作の中の引用で知った。 副題の「死者の発見」の指す「死者」…

大平健 『豊かさの精神病理』&『やさしさの精神病理』

豊かさの精神病理 (岩波新書)作者: 大平健出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 1990/06/20メディア: 新書購入: 2人 クリック: 12回この商品を含むブログ (28件) を見るやさしさの精神病理 (岩波新書)作者: 大平健出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 1995/09/20…

ミラン・クンデラ 『ほんとうの私』

ほんとうの私作者: ミランクンデラ,Milan Kundera,西永良成出版社/メーカー: 集英社発売日: 1997/10メディア: 単行本 クリック: 3回この商品を含むブログ (3件) を見る以前『存在の耐えられない軽さ』と『不滅』を読んだ僕にとっては、この作品はクンデラ3作…

竹田青嗣 『自分を知るための哲学入門』

自分を知るための哲学入門 (ちくま学芸文庫)作者: 竹田青嗣出版社/メーカー: 筑摩書房発売日: 1993/12メディア: 文庫購入: 8人 クリック: 110回この商品を含むブログ (40件) を見る「哲学」とは、自分や世界の深淵を覗き込むことができる、高尚な知的営為に…

(2009年9月5日に書いた小さな物語です)森の中の小川のせせらぎを、一匹の蛙が一葉の舟に乗って、流れに逆らって進んでいた。しとやかな雨が降っていた。 道なき道を、鉈でざくざくと蔓を払い、藪を掻き分けてきた旅人は、足を止め、凝然と蛙に見入った。 …