Taku's Blog(翻訳・創作を中心に)

英語を教える傍ら、翻訳をしたり短篇や詩を書いたりしたのを載せています。

創作

汽笛

日の高い、四月の終わりの昼間、大きな本屋で女の手頸の傷を映した写真集を見た。写真には二十代半ばと思しき痩せた裸の女の左半身が映っていて、手頸の上部に抉ったばかりのような紅色の深い裂目があった。私はすうっと女の手頸から腕へと、肩へと、小さな…

(2009年9月5日に書いた小さな物語です)森の中の小川のせせらぎを、一匹の蛙が一葉の舟に乗って、流れに逆らって進んでいた。しとやかな雨が降っていた。 道なき道を、鉈でざくざくと蔓を払い、藪を掻き分けてきた旅人は、足を止め、凝然と蛙に見入った。 …

眠れぬ夜の詩

君は屠殺場において 鼻輪に綱を牽かれ出でたる牛が 漆黒の目を涙に泳がせ曖昧に啼き (彼は何事か分からぬが、不安なのだ) おろおろ廻り、たぢろぎ、怖氣づく、と 瞬目のうちに 彼は電氣ショックを與へられ 冷ややかな瀝青に崩れ落ち やにわに現るる靜寂が …