創作

猿の章

7年前に書いた『蛙』という掌編(http://nakanotaku.hatenablog.com/entry/20120917/1347815563)を下敷きに、「猿」というお題で書いてみました。原稿用紙1枚半ほどの掌編です。 雨に濡れた猿が、ゆっくり呼吸をしている。しずくが鼻先から唇に落ちる。 井…

夏の初め

木漏れ日の下 小さな力こぶの浮き立った 十五くらいの若人らが 酒をぐびり、ぐびり。 唇の周りのか細い無精髭に だらしなく雫が残っている。 僕と三つも変わらぬ若人らは めいめいどこで通過儀礼を経てきたのか ――おやじの理不尽な暴力?―― 子に特有の よそ…

秋の木漏れ日

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東京新聞に応募した「300字小説」です。

東京新聞に応募した「300字小説」です。この長さだとほとんど何も書けないんだけれど、たまに挑戦してみたくなります。 ――――― かれは、生ぬるいビールを嚥下する。温かい息が、煙草の臭いと混じる。黄色い目はとろりとして、どこでもない一点を見つめている…

物語の断片

人は生きられなかった生を生きるために文学を書くのだ、と誰かが書いていて、思わず考え込んだ。 僕が生きられなかった生とは、偶有的な生の集合だ。必然的に見える生を生きる僕が、偶有的な生の集合の元をひとつ手繰り寄せ、その生を物語ることで生きてみせ…

『哀しみ』 (東京新聞公募の「300文字小説」)

東京新聞の日曜版に連載の「300文字小説」に応募した作品です。タイトルは、ちょっと考えあぐねたけれど、『哀しみ』としました。日曜の朝からこんなの喜んで読む人いないと思うけど、まぁいいや。 冷たい雨が落ちてきた。Tは、カーキー色の上着の中で、身を…

月夜、酔った夜に。

月の光を眺めていた。光雲が月を霞めて漏れる光は淡く、淡く酔った私を撫でている。真暗な雲と眠らぬ夜を寡黙に照らす月を人は太陽の輝きの反映と解明しシャトルをそのみじめな衛星に飛ばし潜在敵国をして威嚇せしめた。人類は途方もなく狡知で途方もなく愚…

(2009年9月5日に書いた小さな物語です)森の中の小川のせせらぎを、一匹の蛙が一葉の舟に乗って、流れに逆らって進んでいた。しとやかな雨が降っていた。 道なき道を、鉈でざくざくと蔓を払い、藪を掻き分けてきた旅人は、足を止め、凝然と蛙に見入った。 …

眠れぬ夜の詩

君は屠殺場において 鼻輪に綱を牽かれ出でたる牛が 漆黒の目を涙に泳がせ曖昧に啼き (彼は何事か分からぬが、不安なのだ) おろおろ廻り、たぢろぎ、怖氣づく、と 瞬目のうちに 彼は電氣ショックを與へられ 冷ややかな瀝青に崩れ落ち やにわに現るる靜寂が …

雑踏の中の孤独

夜の10時半頃であったと思う。大阪駅を歩いていた。改装工事を終えたばかりで、広々とした空間を、真新しい石のタイルが敷き詰めてあった。空間の壁はほとんどすべて、シャッターが下ろされた高級ブティックや旅行代理店が占めていた。大都市のターミナルの…