映画評
The Passion of the Christ(『パッション』)10月3日鑑賞 邦題は『パッション』。英語で、the Passionは、イエス・キリストの受難を表す。メル・ギブソン監督のアメリカ映画だが、セリフはすべてラテン語とアムル語。当時の空気感を、イエスの存在感を立体…
インターネットで自殺志願の女を募り、彼女たちの血液を抜いて、その血液を飲む…。これはもちろん、利他的な自殺幇助では全然なくて、歪んだ性欲の発露、利己的な行為に違いない。実際、ウェブサイト上で、「ヴァンパイア(吸血鬼)」と名指される彼自身、そ…
結婚している男と、かつての男の愛人の女との不倫と逃避行を描いた、ジャン・リュック・ゴダールの1965年の作品。美しい構図が印象的で、場面場面に応じて工夫された色使いと光のコントラストが駆使されている。どの場面も美しい一枚の絵のようで、この映画…
桁外れの映画だ。 今まで自分が時代劇と思っていたもの、大河ドラマはなんだったのか。確かに、これまでの時代劇が鼻につくことはあった。現代のテレビ文化にぴったり合うように、現代人が付け加えたチープな華やかさ。荒々しさ、猛々しさ、血生臭さのない殺…
「生きる」とは何であるか、これほど困難で切実な問いは他にない。 この作品の主人公は、胃癌に冒された、30年間無欠勤の役所職員だ。真面目ではあるが、日々を無難に、惰性で過ごしてきた彼を、黒澤は「本当の意味では生きてこなかった」と断じる。或いは、…
若きウェルテルの悩み (新潮文庫)作者: ゲーテ,高橋義孝出版社/メーカー: 新潮社発売日: 1951/03/02メディア: 文庫購入: 5人 クリック: 49回この商品を含むブログ (94件) を見る 大分前に読んだ小説で、読み終えた直後の胸のざわつきはもう残っていないけれ…
『どん底』 ゴーリキーの同名の戯曲を、舞台を江戸時代に設定したもの。酒や博打でどうしようもない人間たちの、「絶望しきれない悲哀」を描いた作品。大人数が、まるで昔の刑務所の大部屋のような一部屋に住み、入って行ったり出て行ったりする。左卜全演じ…
私たちはしばしば、目を逸らしたり、無関心でいたり、無知を装うことで、知っているのに知らないでいることができる。 私たちが、命ある生き物を殺し、その肉を食べて生を繋ぎ止めていることはその一つだ。そして、私たちの社会では、日々大量の肉が消費され…
尾道から老夫婦が、独立した子どもたちに会いにやってくる。しかし、子どもたちは仕事にかまけ、残酷なほどに冷淡で、迷惑そうだ。金を払って熱海に遣って、時間を潰させる始末。そんな中、老夫婦の戦死した息子の妻であった、原節子演じる紀子だけが、心を…
一番美しく [DVD]出版社/メーカー: 東宝発売日: 2002/12/21メディア: DVD クリック: 4回この商品を含むブログ (8件) を見る 黒澤が戦時下に撮った作品で、少なくとも一般には傑作としての評価は受けていない。戦意高揚のためのプロパガンダと看做す向きもあ…
いつもは、ある程度まとまった長さの分量を書いているけど、休暇中、メモのようにさくさくと紹介です。『用心棒』(Yojinbo) 『七人の侍』のトリックスターとしての三船ではなく、渋い、剣の達人としての三船が見られます。黒澤の描くのは、時代劇のチャンバ…
おそらく建築士として成功を収めている中年の男(Jack)は、ガラス張りの最先端のデザインの現代的な建築物の一室で、ふとガラス越しの一本の木と、小さな青いグラスの中のキャンドルの炎を見て、自身のの思春期に思いを馳せる。彼の鮮やかな思い出は、一人の…
世間ずれした大人は、子どもは純粋だと言う。無垢で愛らしい、と。そうしてきっと、無垢で愛らしい自分の子どものときを懐かしむ。多分、だらしのない顔で。 子どもが純粋であるなら、大人は幾分か濁ったところがあるはずだ。僕たちがそうした大人になったの…