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エドワード・G・サイデンステッカー/松本道弘 『日米口語辞典』(1977年版)

書評

日米口語辞典 (1977年)

日米口語辞典 (1977年)

最新日米口語辞典

最新日米口語辞典

 有名な本であるが、30年以上前の古い本だからだろうか、Amazonにレビューがついていないことにビックリした。増補改訂版が1982年に出ていて、こちらにはいくつもレビューがついているのでこちらも参考にしてくださればと思うが、どちらも絶版で、特に増補改訂版は、現時点で中古品が7,980円とかなり高価である。77年の版は、中古品ではあるが、現時点であれば妥当な値段で購入できる。

 これは、本物の名著である。読んでほんとうに楽しい和英辞典である。僕は、昨日、古本屋さんで800円で購入した。本当にラッキーだ。

 執筆陣を見て欲しい。サイデンステッカーといえば、川端康成の名訳で知られている。川端が、サイデンステッカーの名訳がなければ、彼がノーベル賞を受賞することはなかっただろうと言ったことは広く知られている。そして、松本道弘。一度も海外に出ることなく、NHKの上級英語講座の講師・米国大使館同時通訳を担当するまでになった強者で、私が大学時代からTIME誌を読んでいるのは彼の影響である。さらに、「現実にアメリカ人が使用していない表現、きわめて特殊な場合にしか使用されない表現、卑俗にすぎる表現などが混入することを防ぐために、性別、年齢、職歴、居住地域などがそれぞれ異なる、数十名の教養あるアメリカ人に、一語一語入念なチェックをお願いした」(「はじめに」より)という。帯には、何と、ドナルド・キーン氏、西山千氏(アポロ11号の月面着陸を同時通訳した、日本の英語同時通訳者の草分け)が推薦文を載せているんだよ!

 この本の魅力を伝えるには、ペラペラとページをめくって、目に留まった項目を2つほど紹介するだけで十分だろう。どのページにも何か発見があって、どこから読んでも本当に愉しいのだ。
 

いける a bit of all right
 この a bit of を「少し」と解してはならない。むしろ「ひじょうに」というような意味でall rightを強調している言葉であり、a bit of all rightで「かなりいい」という意味になる。会話には、しばしばこうした逆説的な強調法がある。littleを入れてa little bit of all right とすれば、より強い調子になる。「この酒はいけるね」なら、This sake is a (little) bit of all right. になる。なお「飲める」の意で「きみはなかなかいけるね」ならYou can really drink.である。 知っているかい、こんどの秘書はいけるよ。 Let me tell you. The new secretary is a bit of all right.

 

無理もない don't blame
I don't blame you for getting angry. この英文を見てすぐに「君が怒るのも無理もないよ」という訳が浮かべば合格。don't blame を「非難しない」と訳してはこの英文のニュアンスは伝わらない。blame は確かに「責める、非難する」だが don't blameとなると、これは「無理もない、道理だ」の感じになる。Who can blame you? も同様のことが言える。 彼があんなことを言ったんだから、君が彼をなぐったのも無理ないよ。 I don't blame you for hitting him after what he said.

 今、手元の電子辞書に入っている、研究社の新和英大辞典で「無理もない」という日本語から英訳を探してみた。natural や may well、no wonder や have good reason を使った「ごく思いつきやすい」表現は掲載してあるが、やはり、このdon't blameは載っていない。本書が、こうした、日本人には思いつきにくい表現を精選しているのは、読んで愉しい辞書を作るという一貫した編纂方針ゆえだろう。

 改めて、この本は、愉しい。絶版であるのが本当に残念である。復刊を強く望む。気になった方は何とかして入手して欲しい。絶対に後悔させないことは、私が請け合います。