読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

秋の終わりに オリオン座の流れ星

エッセイ

三日前、オリオン座の星雲で流れ星が見られると聞いた。深夜の零時から一時頃が見頃だというので、私は零時半頃に仕事から帰ってから、家の前でずっと空を見上げていた。

 オリオンには一等星が二つあるが、随分と小さくて弱々しく光っていると思った―と同時に、街灯やら道路の灯り、煌々とした商業看板のネオンが空に映じていることに思いが至ると、合点がゆくと同時に、少しつまらなかった。

 それでも、人間の目とはよくできたものだ。私が生まれて初めての流れ星を見ようとじっと薄暗い星雲のあたりに目を凝らしていると、寂寞たる闇夜に闖入する邪魔な光は、次第に私の背後に隠れた。一等星は、少し明るくなり、下の等級の星も視野に入った。再度、星雲に焦点を合わせ、私は息を潜めていた。子供の頃、いつまでも眠れぬ夜には、灯りを消した部屋の隅々までが見えたことを想った。煙草を吸うと、先端の明かりが眩しいほどだった。

 十分は待ったと思う。突然のことだった。オリオンの星雲―東の空低くに昇ったばかりのオリオンのほの暗い星雲から、青い星がほとんど直角に落下したのを確認した。意表を突かれた。流れ星とは、夜空の脇腹を、傷跡も残さぬ程の速度で横に切り裂くものではなかったのか。日本語の綾か。そういえば、ロシア語では、流れ星をметеор「落ちる星」と言うそうだし、英語でも、shooting starに加えて、falling star(「落ちる星」)とも呼ばれるのだ。そうか、流れ星は、落ちるのか。何という意外!何という一瞬!青い星が落ちてしまってから、迷信を信じぬ私はそれでも、慌てて願い事を唱えた。その後もしばらく空に目を凝らしていると、二度、星が落ちたような気がしたが、集中が切れたからか、初めほどの確信をもつことはなかった。オリオン座は、一等星のベテルギウスとリゲルは、明るく輝き、瞬いていた。何百年も前の光が、現代の空の地図を描いている。あの、落下した星は、実際はいつ落ちたのだろう。まだ宇宙の中をを落下しているだろうか。深海魚の眠りのように深くへと。

 目を暗闇に慣らすのは良いことだ。普段は寝付きが悪いのに、この日ばかりは、家に入るとすぐに眠った。夢の中で流れ星が空を横切ったかは覚えていない。それでもきっと、この地球で、誰かが死んで、誰かが生まれた夜だった。それは、伝説の可能性ではない。私たちは、どんなにあまたの流星を見ても一顧だにしない、母なる地球に住んでいるのだから。