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東京新聞に応募した「300字小説」です。

創作

東京新聞に応募した「300字小説」です。

この長さだとほとんど何も書けないんだけれど、たまに挑戦してみたくなります。
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 かれは、生ぬるいビールを嚥下する。温かい息が、煙草の臭いと混じる。黄色い目はとろりとして、どこでもない一点を見つめている。ネクタイは緩み、はだけた首は赤く弛んでいる。手が、震えている。

 私は、かれを見ていた。かれは、憤懣をぶつけるか、カウンターに突っ伏して泣くか、眠るか、それとも嘔吐するか。結局、彼は――そのすべてをした。私は、ほとんど彼を殴りつけるところだった。

 明日からかれはどうやって食っていくのか。人はどうして、不幸を、酒という不幸で上塗りするのか。時計は左には回らない。嘔吐したものは、もう胃に戻らないのと同じだ。

 酔っていたのは私も同じだ。明朝に宿酔で目覚めたとき、私はかれを思って泣いた。