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桜(2015年5月10日加筆修正)

(2016年4月2日、花冷えの夜に書いた詩(前のエントリ)を加筆修正したものです。)

二十年前、父は末期の癌だった。

遠い山並に小さく満開の桜を見やり、
「今年の桜が最後か」と言った。
その年の六月、父は逝った。
私はそれから何年も、
桜を見るたび、
鼻の奥がつんとした。

それなのに私が三十を過ぎたころ、
桜は、私に特別な感興を催すことをやめた。

私は見頃の桜を見損ない、
擦り減った靴で、
濡れた花びらを踏んで歩いていた。

金色の日とみどりの木々はどこへ。
思い出すのは
焼けたコンクリートと蜃気楼。
たばこがびりびりまずかった。
その夏は終わりはどんなだったのだろう。

桜よ。私は今年もまた、まだあなたを見ていない。
あなたは本当に生き急ぐから。
あなたは本当に生き急ぐから。

私はことしで三十五になる。

父が逝ったのは二十年前の初夏だった。
桜は、すべて散ってしまっていた。

「今年の桜が最後か」と父は言った。