Taku's Blog(翻訳・創作を中心に)

英語を教える傍ら、翻訳をしたり短篇や詩を書いたりしたのを載せています。

私の知らないあなたへ

    私の知らないあなたが樹の葉を見るとき

 

 あなたがそれらに降る、陽の光を見、めくるめく思いがするとき

 

 私は私でなくなって、心が溶け合う。

 

 また別の誰かと誰かは

 

 食事を愉しんでいる。

 

 語らいが虚空を泳ぐ。

 

 およ、いだ。

 

 いま彼女は、折に触れて語らいの行き先を思い出そうとする。

 

 できない。それでも、からだが温かくなる。血が流れる。わたしのなかを。

 

 誰かが、じぶんの記憶が失くなるのは怖いと思う。

 

 その誰かは、私ではない、誰かだ。

 

 彼は幼いときに目にした、彼の父の若い頃の、白黒の写真を覚えている。歯を見せて笑んでいる。宴席にあって、白い徳利で酒を飲んでいる。彼の父は死んで、その写真は茶びた紙に貼られている。私には、その彼が自分に思えてきそうなのに、やっぱり私ではないのだ。彼の父も、私でも私の父でもない。

 

  恐れと脅えが私のうちにおり、私を統べているというのに、私はその正体を見極めようともせずに、あなたの自由はきっと実現されると決めつけて、虚しく、虚しく、さざ波のように考えた。でもあのとき、やっぱりあなたの存在は確かに希薄であった。

 

 

 それが、私だった。苦しかった。