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Carver’s Dozen レイモンド・カーヴァー傑作選 村上春樹編訳

書評

Carver's dozen―レイモンド・カーヴァー傑作選 (中公文庫)

Carver's dozen―レイモンド・カーヴァー傑作選 (中公文庫)

 レイモンド・カーヴァーは、私たちの人生が変貌する瞬間を描く。それらは、未来への希望の示唆であることもあるし、絶望への、あるいは自我の崩落への不気味な予兆であることもある。

 私たちはしばしば、日常を、自己を、変わらぬものと錯覚する。もちろん、ある程度はそうしなければ、日常の風景は統合されないカオスになるし、自我は同一性を失って瓦解するのだが、しかし、度を超えると、私たちの生は、変化への感受性を剥奪された単なる退屈へと堕する。

 カーヴァーの作品は、こうした私たちの鈍麻した感覚を鋭く突き、覚醒させる。私たちは、多くの場合、人生の重要なターニング・ポイントを事後的に振り返る。変化の渦中にあって、私たちは地に足を着けて、碑を建て、自らの選択として歩み出すよりは、むしろ、いわゆる「運命」に流されてゆく。カーヴァーは、私たちが迂闊にも見逃すこの瞬間を、見事に捉えるのだ。それらは主人公の予感として描かれることもあるし、奇妙な出来事や登場人物によって象徴的に示されることもある。私は、読者としてその場に立ち会うだけで、胸が疼き、震えるのを禁じ得なかった。私の退屈な生にも、幾度となく変貌の契機が奇妙に訪れ、私はそれを遣り過ごしてきたのだ。



大聖堂 THE COMPLETE WORKS OF RAYMOND CARVER〈3〉

大聖堂 THE COMPLETE WORKS OF RAYMOND CARVER〈3〉