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Jostein Gaarder 'Sophie's World: A Novel about the History of Philosophy'

書評

Sophie's World: A Novel About the History of Philosophy (FSG Classics)

Sophie's World: A Novel About the History of Philosophy (FSG Classics)

 主人公はソフィーという、15歳の誕生日を間近に控えた少女で、ある日郵便受けに「あなたは誰?」「どこから来たの?」という不思議な手紙を受け取ります。この手紙をきっかけに、ソフィーは、アルベルトという謎のおじさん(?)から、ソクラテス以前の古代ギリシャの哲学者から始まって、フロイトサルトルら20世紀に活躍した哲学者に至るまでの個人レッスンを受けることになります。

 毎回新しい哲学的な問いが書かれてある不思議な手紙には、しばしば、Hilde c/o Sophie(ソフィー方ヒルデ様)という宛先が書かれてあります。ソフィーは、ヒルデという女の子を知りません。知らないけれども、手紙からは明らかに、ソフィーと同じ日に15歳の誕生日を迎えるようです…。

 僕が英語を教えている先での、高校2年生の課題図書です。彼ら彼女たちは、毎週少しずつ、500ページを1年かけて読むことになります。(何とか読み切った学生の達成感は、とても大きいとのことです。)西洋哲学の歴史の概略がここまで分かりやすく(…というのは哲学的な物言いではないかもしれないですが、それでも)書かれていることにはただただ驚きました。アルベルトおじさんが、ちょっと抽象的なものの言い方をすると、14歳(あるいは15歳)のソフィーが、「例を挙げて」などと言って、話をどんどん噛み砕いてくれる。分かりやすい、ほんとに分かりやすい!古代から20世紀に至るまでの哲学者と、ささやかなりとも問題意識を共有しつつ、批判的に考えながら読み進められるのは、まさに哲学の入門書(この言い方は反発を招くこともあるかも知れませんが、ご海容ください)として理想的な構成です。

 今、日本の高校で教られる哲学(科目としては「倫理」や「世界史」に現れる)は、残念ながら死んだ知識でしかありません。古代ギリシャ人が、なぜ万物の構成要素としての「アトム」を発想したのか(僕はこの本を読むまで知りませんでした)、デカルトはなぜ「我思う、故に我在り」と書いたのか、マルクスの思想はどうして世界史に強烈な影響を与えたのか、多くの場合、それらはすべて、文脈を剥奪され、「単語」だけが大学受験のための暗記の対象になります。非常に残念なことですし、こうした教育のあり方は絶対に変えなければならないと思います。

 哲学レッスンの進行とともに、物語は意外な展開を見せます。小説として完璧とは言いませんが、それでも筋が面白いのには違いないし、第一級の哲学入門書であることは請け合います。何よりも、「若い人に向けた分かりやすい哲学の入門書を書こう」という、著者の意気込みと、読者に温かく語りかけようとする姿勢には感銘を受けました。英語版は、高校生にはちょっと難しいかもしれませんが、大学の一般教養で、半期、あるいは通年で扱う図書としてなら(そして、興味ある哲学者を掘り下げさせるなら)、多くの学生にとって得るものが多いと思います。

もちろん、学生ではない方にもおすすめできます。哲学にほとんど触れたことがない方も、哲学史の大まかな流れを知っている方も、どちらも楽しめる稀有な本です。

 全世界で2,300万部も売れたそうです。すごいね。

 和訳はこちら。(ただ、英語版も比較的易しいので、英語のできる方や意欲ある方は英語でのチャレンジをおすすめします。もっとも、ノルウェイ語の原書にあたれるに超したことはありませんが。)

ソフィーの世界―哲学者からの不思議な手紙

ソフィーの世界―哲学者からの不思議な手紙